✅ 比較の目的
どちらも「共通オブジェクトの再利用・共有」を目的とする場面で登場するが、設計思想や制御の主体に明確な違いがある。
本節では、構造の類似性に惑わされず、それぞれの目的と役割を明確にし、使い分けの判断軸を整理する。
✅ 比較の観点
比較項目 | Singleton(シングルトン) | DI(依存性の注入) |
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目的 | インスタンスの一意性とグローバルアクセスの確保 | 依存関係の明示と外部からの注入 |
ライフサイクル | アプリケーション全体で 1 つだけ生成される | 呼び出し元またはコンテナが制御 |
柔軟性 | 低め(インスタンスの差し替えが難しい) | 高い(モックや代替実装の注入が容易) |
テスト容易性 | 低め(グローバル状態のためテストしにくい) | 高い(依存の切り替えが容易) |
隠蔽性 | 高い(内部で依存を隠してしまう) | 低め(依存を明示する) |
利用スタイル | getInstance() で取得し、内部で依存を生成 | コンストラクタやコンテナ経由で外部から注入 |
✅ 類似点
- どちらも「あるクラスのインスタンスを 1 つに限定し、アプリケーション全体で共有する」というユースケースに登場する
- グローバルな状態や構成情報、共通サービスなどに使われることが多い
- 過剰に使うと結合度が高まり、テスト性や保守性に影響を与えることがある
✅ 決定的な違い
観点 | Singleton | Dependency Injection(DI) |
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インスタンス制御 | クラス自身が責任を持つ | 呼び出し元・外部コンテナが責任を持つ |
主導権 | クラス内部(self-managed) | 外部(caller-managed) |
柔軟性 | 低い(常に同一インスタンス) | 高い(Mock やスタブと差し替え可能) |
テスト性 | 低い(グローバル状態に依存) | 高い(依存注入により制御可能) |
使用意図 | 制御不能な共有リソースの制限 | 可変な依存関係の柔軟な構成 |
✅ 選び分けの判断軸
- ✅ システム全体で唯一の状態・設定を保証したい → Singleton
- ✅ 外部から依存を差し替え可能にしたい(テスト・構成切替) → DI
- ✅ クラス自身に主導権を持たせたい → Singleton
- ✅ 呼び出し側で制御したい/可変性を持たせたい → DI
✅ UML クラス図
Singleton パターン
DI(依存性注入)
✅ 実務でのヒント
- ✅
Singleton
は便利だが、使いすぎるとテストが困難になり、結合度も高まる
- ✅
DI
を使えば、テスト環境ではモックを注入できるなど、柔軟な構成が可能になる
- ▶️ 例:アプリ設定やログ出力など、本当に唯一性が必要な場面は Singleton、それ以外は基本的に DI による注入が推奨
✅ まとめ
Singleton
は「自分で自分を唯一にする」自己管理型の設計
DI
は「誰を使うかを外部に任せる」依存関係の明示的な制御
- 両者は一見似ているが、主導権の所在と柔軟性のレベルが大きく異なる
- 将来的な変更・テスト・拡張を見据えるなら DI が有利。Singleton は限定的に使うべき