Why It Breaks
Part I で挙げた壊れ方は、偶発的に発生するものではない。 特定の前提が崩れた状態が放置されると、 同様の壊れ方が時間とともに繰り返し観測されるようになる。
この章では、壊れ方そのものではなく、 壊れ方が繰り返し現れる力学を扱う。 個人のスキルや注意力ではなく、 前提、判断、学習の仕組みといった構造に焦点を当てる。
ここで扱う内容は、直接的な原因や解決策ではない。 「なぜ直しても再発するのか」 「なぜ改善が積み上がらないのか」 といった問いに対し、構造として説明可能な枠組みを与えることを目的とする。
扱うテーマ
以下の各テーマは独立した原因ではなく、相互に影響し合う力学として扱う。
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コンテクスト不足
前提や判断理由が共有されず、
何が正で、なぜそうなっているのかを説明できない状態が蓄積する。 -
測定不在
Measure が存在せず、
比較や是正が行えないまま、先送りが合理的な判断として定着する。 -
決定回避
決定責任を負うリスクが分散・遅延され、
「決めないこと」が柔軟性として機能する構造が生まれる。 -
学習ループの欠落
振り返りが事実の観測に基づかず、
Build–Measure–Learn が成立しないまま手順だけが増殖する。
この章では Failure Pattern を提示しない。 各テーマは、後続の Pattern を理解するための前提となる。
これらの力学が組み合わさることで、特定の壊れ方が繰り返し現れるようになる。
Part III では、その再発構造を Failure Pattern として整理する。