不確実な状況で判断を引き受ける
~ Restoring Decision-Making Under Uncertainty
実際の開発・保守の現場では、判断に必要な前提が安定して揃うことはほとんどない。
仕様は断片的であり、関係者の認識は揺れ、時間的・組織的な制約も同時に作用する。
それでも、判断は引き受けられ続けなければならない。
本章では、不確実性が残る状態を前提として、どのように判断可能性を回復し続けるかを扱う。
完全な理解や網羅的な合意は目標としない。
最小限の固定点を設けることで、状況を前進させるための枠組みを整理する。
本章の立ち位置
本章は、Failure Patterns の 対になる章である。
Failure Patterns が
「何がどのように壊れるか」を記述するのに対し、
本章では
「壊れた(または壊れかけた)状況で、どのように判断を引き受けるか」を扱う。
ここで示す内容は、一般的な要求工学やプロジェクト管理の網羅ではない。
不完全な状況下で、判断不能に陥らないための最小構成を対象とする。
扱うテーマ
本章で扱う内容は、特定の設計手法やプロセスを適用するための手引きではない。
Failure Pattern や Why It Breaks の各トピックは、原因を特定したり、正解を導くための分類ではなく、判断を引き受けるための視点として用いられる。
以下は、概念 → 適用 → 戦略 → 拡張の順で並べているが、必ずしも順に読む必要はない。
- 決めるべき最小セットと、決めない領域の扱い
- 不完全な前提での Requirement Analysis
- Failure Pattern を参照した介入戦略の設計
- AI を加速器として利用するための前提固定
Failure Pattern を、原因ではなく判断の参照点として利用することを想定する。