🧩 Streaming Pipeline
✅ このスタイルの概要
連続して流れてくるデータ/イベントを、途切れさせずにパイプラインで処理し続けるスタイル。
- 常にデータが「流れている」ことを前提としたパイプライン
- ほぼリアルタイムでの集計・検知・変換に強い
- バッチではなく ストリーム(流れ) を設計対象とする
✅ 解決しようとした問題
バッチ処理や単発の ETL では対応しきれない、次のような課題を解決したいときに Streaming Pipeline が登場する。
- イベント数が多く、1 回ごとのバッチ処理が重くなりすぎる
- 「1 時間ごとのバッチ」では遅く、ほぼリアルタイムで検知・反応したい
- 同じデータを複数チームや複数システムが 継続的に利用したい
- ログ/センサー/トランザクションデータなどが 絶えず増え続ける
「結果だけでなく、データが流れていくプロセス自体を、継続的に動くパイプラインとして設計したい」
というニーズに応えるスタイルである。
✅ 基本構造と考え方
Streaming Pipeline では、データは以下のようなステップで流れていく。
- Source(ソース)
- Kafka Topic / Kinesis Stream / Pub/Sub 等からイベントを受け取る
- Transform(変換)
- フィルタリング、マッピング、結合、ウィンドウ集計などを行う
- Enrich(補強)
- 他のストリームや参照データを使って情報を付加する
- Sink(シンク)
特徴的な要素:
- Immutable Event / Append-only:過去のイベントを上書きせず、「流れた事実」として扱う
- Windowing(時間窓):一定時間ごとの集計・検知(例:直近 5 分のエラー数)
- Stateful Processing:ストリーム処理の途中で状態を持ち、継続的に更新する
- Backpressure / Rate Control:大量の入力に対して、処理能力を超えないよう制御する
概念図(Conceptual Diagram)
✅ 得意なアプリケーション
Streaming Pipeline が特に威力を発揮するのは、次のような領域である。
-
ログ・メトリクス処理
アクセスログ、アプリケーションログ、メトリクスのリアルタイム集計・アラート。 -
イベント駆動サービス
ユーザー行動イベントをもとにしたレコメンド、パーソナライズ、フィード生成。 -
IoT / センサー系
センサーデータやデバイスからのテレメトリの連続監視、異常検知。 -
決済・トランザクションモニタリング
不正検知、リアルタイムのリスク評価など。
❌ 不向きなケース
Streaming Pipeline は「何でもストリーミングでやればよい」わけではない。
-
1 回きりの集計やマイグレーション
単発の重い処理はバッチの方がシンプルなことが多い。 -
厳密な一括整合性が必要な処理
すべてのデータが揃ってから一度に判断する方が安全なケース(例:期末バッチ決算)。 -
シンプルな CRUD 中心の業務システム
そもそもストリームとして設計する必要がない場合も多い。
✅ 歴史(系譜・親スタイル)
Streaming Pipeline は、次の文脈から発展してきた。
- Pipe & Filter や Batch Pipeline の考え方を、リアルタイム処理に拡張したもの
- ログ集計基盤(Hadoop 時代)から、Kafka などの分散ログ基盤 + ストリーム処理エンジンへと進化
- Lambda / Kappa アーキテクチャにおける「スピードレイヤ」「ストリームレイヤ」として定式化
「バッチの限界を超え、データが到着するたびに処理し続ける」
という方向に振り切ったパイプラインスタイルである。
✅ 関連スタイルとの関係
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Pipe & Filter
モデルとしては同じくステージの連結だが、Streaming は「常に流れている」ことが前提。 -
Batch Pipeline
処理単位が「ジョブごと」「日次・時間ごと」か、「イベント単位/時間窓単位」かの違い。 -
Event-driven Architecture / EDA
イベントの流れがシステム境界をまたぐ場合、その内部処理として Streaming Pipeline が登場する。 -
Lambda / Kappa Architecture(Data 系)
ストリーム処理と DWH / Data Lake をどう組み合わせるかの文脈でよく登場する。
✅ 代表的なフレームワーク
Streaming Pipeline を実現する代表的な基盤・フレームワークには次のようなものがある。
-
Apache Kafka Streams / ksqlDB
Kafka 上のストリーム処理専用ライブラリ。トピック間のストリーム変換・結合・集計を記述できる。 -
Apache Flink
ストリーム処理に強い分散処理エンジン。複雑なウィンドウ処理・状態管理が可能。 -
Apache Beam(ストリーミングモード)
Batch / Streaming を同一モデルで記述でき、Dataflow など複数ランタイムにポータブル。 -
Amazon Kinesis / Google Cloud Pub/Sub + Dataflow など
マネージドサービスとしてストリーミングパイプラインを構築できる。
✅ このスタイルを支えるデザインパターン
Streaming Pipeline は、オブジェクト指向のデザインパターンで見ると次のような組み合わせになっている。
-
Iterator
ストリームを「次の要素を順に取り出す」抽象として扱う。 -
Observer
新しいイベントの到着を購読し、処理をトリガーする。 -
Chain of Responsibility
複数の処理ステージをつなぎ、イベントを段階的に処理していく。 -
Mediator
複数のストリームやステージが絡むとき、ルーティングや結合を一箇所に集約する。 -
Strategy
ステージごとの処理ロジック(集計アルゴリズムやフィルタ条件)を差し替え可能にする。
✅ まとめ
Streaming Pipeline は、
- データが絶えず流れ続ける前提で
- ステージを組み合わせて
- ほぼリアルタイムに処理・集計・検知する
ためのパイプラインスタイルである。
Pipe & Filter / Batch Pipeline と同じ系譜にありながら、
「データが来るたびに動き続ける処理フロー」
を設計の主役にする点が最大の特徴である。
データ量・リアルタイム性・拡張性の要件が高いシステムでは、
Streaming Pipeline を意識した設計が、アーキテクチャ上の重要な選択肢となる。