🌟 アーキテクチャ原則
ソフトウェアアーキテクチャは個々のスタイルや技法の集合ではなく、基盤となる「原則(Principles)」によって支えられる。本ページでは、スタイルを横断して共通に働く主要なアーキテクチャ原則を体系的に整理する。
✅ 依存方向の原則(Dependency Direction)
アーキテクチャにおける最重要原則のひとつは、依存がどちらの方向へ向くか を意図的に設計することである。
- 上位レイヤ(Policy) → 下位レイヤ(Detail)への依存を避ける
- 具体実装は抽象インターフェースに従う(DIP: Dependency Inversion Principle)
- Hexagonal / Onion / Clean Architecture などはこの原則を中核に据える
依存方向は、変更容易性・テスト容易性・モジュール性に直接影響する。
✅ 結合度と凝集度(Coupling & Cohesion)
健全な設計の基本要素として次がある:
- 低結合(Low Coupling):他コンポーネントへの依存を最小化する
- 高凝集(High Cohesion):ひとつのモジュールが一貫した責務を持つ
結合度・凝集度はすべての構造スタイルに関係し、トポロジー(Microservices / Modular Monolith)にも影響を与える。
✅ 境界(Boundaries)とコンテキスト
アーキテクチャでは、どこに境界(Boundary)を引くかが最も重要な意思決定のひとつである。
- 境界づけられたコンテキスト(Bounded Context)
- インターフェース / ポートによる境界定義
- チーム境界との整合(Conway's Law)
境界の設計は、システムのスケール性と変更容易性を左右する。
✅ 同期 vs 非同期(Sync / Async)
通信方式の違いは構造全体に影響を与える。
- 同期:REST/gRPC、リクエスト応答型
- 非同期:イベント駆動、ストリーム処理、メッセージング
可用性・待ち時間・整合性要求に応じて適切な方式を選択する必要がある。
✅ 整合性モデル(Consistency Models)
データ中心の設計で重要となるポイント:
- 強整合(Strong Consistency)
- 最終的整合性(Eventual Consistency)
- 規模に応じたトレードオフ(CAP / PACELC)
CQRS や Event Sourcing、Microservices は整合性モデルの理解を前提とする。
✅ Essential Complexity と Accidental Complexity
システムの複雑性には 2 種類がある:
- 本質的複雑性(Essential Complexity):ドメインそのものの複雑さ
- 偶発的複雑性(Accidental Complexity):技術選定や設計によって増える不要な複雑さ
優れたアーキテクチャは偶発的複雑性を削減し、本質的価値に集中できる構造を実現する。
✅ 設計の重心(Operational / Domain / Data)
アーキテクチャは次の重心のどれを優先するかで変化する:
- Operational(可用性・レジリエンス・監視)
- Domain(ドメインモデル表現)
- Data(データ中心・分析ワークロード)
どこに重心を置くかで、スタイル選定やトップロジーが自然に導かれる。
✅ まとめ
アーキテクチャ原則は、スタイルやフレームワークよりも上位の概念であり、
どのスタイルを採用しても一貫して適用される普遍的ルール である。
これらの原則を理解することで、個々のスタイルを「選ぶ」のではなく、
目的に応じて設計意図を組み立てるための基盤 が身につく。