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🧩 Actor Model

✅ このスタイルの概要

「アクター」と呼ばれる軽量な並行オブジェクト同士が、メッセージの送受信だけでやり取りする並行計算モデル。

スレッドやロックを直接扱わず、メッセージパッシングで状態をカプセル化する。

✅ 解決しようとした問題

  • 共有メモリ+ロックベース並行処理の複雑さ
  • デッドロック/レースコンディションなどの典型的な並行バグ
  • 大量のクライアントを扱う高スループットサーバの設計

Actor Model は、

「状態をアクターごとに閉じ込め、
共有メモリではなくメッセージでやり取りする」

ことで、並行性を扱いやすくしようとした。

✅ 基本思想・ルール

● Actor(アクター)

  • 自身の状態(state)を持つ
  • メッセージを受信すると:
    • 状態を更新する
    • 他のアクターにメッセージを送る
    • 新しいアクターを生成する

● メッセージパッシング

  • アクター間のやり取りはメッセージキューを通じて行われる
  • メッセージ送信は非同期
  • 共有メモリへの直接アクセスは行わない

● スーパービジョン

  • 一部の Actor システムでは、親アクターが子アクターの障害を監視し、再起動ポリシーを管理する

✅ 得意なアプリケーション

  • 高スループットな分散システム
  • チャット/メッセージングサービス
  • オンラインゲームサーバ(プレイヤーやルームをアクターとして表現)
  • IoT やイベント処理基盤

特徴:

  • 並行性をメッセージレベルで制御できる
  • 障害時の復旧戦略(スーパービジョン)が明確

❌ 不向きなケース

  • 単純な CRUD 中心の Web アプリ
  • 並行性の要求が低い業務アプリ

また、Actor Model に慣れていないチームでは:

  • メッセージの設計・フローが複雑化
  • デバッグ手法の違いに戸惑う

といった学習コストも発生する。

✅ 歴史(系譜・親スタイル)

  • 1970 年代に提案された計算モデルにルーツ
  • Erlang / Akka などの実装を通じて実務での採用が進んだ
  • Reactive Manifesto やリアクティブシステムの文脈でも重要な位置づけ

✅ 関連スタイル

8. 代表的なフレームワーク

Actor Model は特に並行性が重要な領域で実用実装が多い。

  • Erlang / Elixir(BEAM VM)
    軽量プロセス+メッセージパッシングによる本家の実装。耐障害性に優れる。

  • Akka(Scala / Java)
    JVM 上での最も有名な Actor Framework。スーパービジョン、分散、永続化など充実。

  • Orleans(.NET)
    “Virtual Actor” モデルを採用し、大規模分散システムで利用される。

  • Ray(Python)
    AI / HPC 分野での分散 Actor 実行基盤。タスク・アクターを統一的に扱う。

9. このスタイルを支えるデザインパターン

Actor Model はオブジェクト指向パターンに変換すると、次の要素に該当する。

  • State
    アクター内部の状態を外部から隠蔽し、自身のメッセージ処理で更新する。

  • Command
    各メッセージを“操作”として扱い、アクターがそれを解釈して実行する。

  • Observer
    イベント駆動でメッセージを受け取り、次の処理をトリガーする。

  • Mediator
    メッセージルーティングやアクター同士の連携を調整する際に現れる。

✅ まとめ

Actor Model は、

  • 並行性
  • メッセージパッシング
  • 障害分離

を強く意識した構造スタイルだ。

スレッドやロックを直接扱う代わりに、
「アクターとメッセージ」という単位でシステムを設計する 発想が特徴的である。